正田 悠(演奏科学・音楽心理学)


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  • 研究テーマや研究の手法について教えてください。
  •  音楽演奏や音楽聴取に関する「認知」と「身体」の研究を行っています。実験や調査を通して人のこころやからだのデータを取得し、その相互関係を分析することで、音楽行為のメカニズムを解明することを目指しています。
     また、本学の「演奏科学実験室」では、演奏音の録音や分析に加えて、演奏者や聴取者の身体の動き(モーションキャプチャ)、心電図・呼吸などの自律神経(生体信号)、筋機能(筋電図)、視線・眼球運動(アイカメラ)といった行動・生理データを取得できます。さらに「音響情報処理システム」を用いて、統計分析(機械学習)、信号処理、深層学習などを用いた研究を行うこともできます。こうした高度な情報・測定機器を駆使しながら、「人はどうして演奏できるのだろうか」とか「音楽を聴いたときに印象や感情が変化するのはなぜだろうか」といった大きな問いを立てながら研究を進めています。その他にも、人が青春時代に聴いた音楽がその後の人生とどのように関わっていくのか…というような研究をひっそりと続けていたりします。

  • 研究室に所属されている学生はどのようなテーマで研究を行っていますか?
  •  音楽に関して、自分たちの興味の赴くままにテーマを設定して研究を行っています。芸大という最大のメリットを活かして、実技専攻の学生たちに研究に参加してもらいながらデータを取得している人が多いです。以下のようなテーマ例があります。

    • アンサンブルにおける演奏者間インタラクション
    • 歌唱における演奏音の音響特徴・呼吸の測定
    • 音楽演奏中の感情・個性の表現
    • ピアノ演奏表現の深層学習
    • 演奏視聴時の視線の動き
    • 絶対音感と演奏技能の関係
    • 音楽演奏者の身体運動や手指の運動・筋機能
    • 個人特性と創造性の関連
    • 初見奏時の認知と視線行動
  • 研究へのモチベーションについて教えてください。
  •  この研究分野では音楽という身近な対象について研究していることもあり、「やっぱりそうだったんだ」ということも「へえ意外だね」ということもあります。データの取得や分析は手段に過ぎません。最終目標は「人間のシステム」について理解すること。そのデータの背景にある人のメカニズムについて考え、「それってすごく面白いことだよね」ということを積み重ねていくことが、研究のモチベーションにつながっていると思います。

  • メッセージを一言。
  •  大学生を対象に「人生で最も重要な歌」に関する調査をしたことがあります(*)。なかなか難しい問いですよね。614人の大学生に「一人一曲」挙げてもらったところ、挙げられた曲の数はなんと全504曲。ほとんどが別々の音楽を挙げたという結果になりました。その音楽を聴いて頑張ろうと思える人もいれば、ノスタルジックな気持ちになって涙を流す人もいます。同じ時代を生きてきた私たちでも音楽へのふれあい方は人それぞれ。なぜこのような違いが生じるのか、一緒に研究してみませんか。
    (*)正田 悠・安田 晶子・中原 純・田部井 賢一・伊坂 忠夫(2021).大学生における「人生で最も重要な歌」のエピソードと聴取反応──トピックモデルによるデータマイニング── 音楽知覚認知研究,27(1), 21–40.