川端 美都子(民族音楽学)


大学Webページ/ Researchmap

  • 研究テーマや研究の手法について教えてください。
  •  民族音楽学という学問は、人と音楽との関係をベースにした学問です。学問の名前にある「民族」とは、自分を含む「人」という意味ですので、皆さんの身近な音楽も研究対象となり得ます。音楽の音の部分だけを取り出して研究するのではなく、何が社会・文化・政治的にその音を可能にしているのか、という脈絡により焦点を当てて研究を行います。また、民族音楽学とは非常に多様な分野で、そのなかに医療民族音楽学、経済民族音楽学、フェミニスト民族音楽学、環境民族音楽学など他の研究分野にもまたがった領域が多数あります。
     私は、これまでアルゼンチンを中心に、北・南米を主なフィールドとして調査を行ってきました。とはいえ、特に研究対象を地理的に固定化するところから始めているわけではなく、ある概念や現象が立ち現れる複数の場を追っていく、という調査法を用いています。また、私たちは、既にオフラインとオンラインの世界が混ざった現実にいるところから、その両者を継ぎ目なく往来するハイブリッド・エスノグラフィーという調査法を用いることもあります。その過程で色々な人と出会い、対話を繰り返し、時には一緒に音楽を演奏したり、踊ったりしながら理解を深めて行きます。
     現在の主な関心事は、ある音楽アイデンティティの構築を可能にするエコシステムと、音楽と環境との相互関係について考えるサウンド・エコロジーです。ライフワークとして取り組んでいるテーマは、(1) 19世紀末から20世紀前半に発展したアルゼンチン風サーカスにおける音楽とその蝋管録音の保存実践、(2) ラテンアメリカにおけるユダヤ音楽の創造と若者文化、(3) 代替素材を使用した楽器の持続可能な音楽実践の模索です。

  • 研究室に所属されている学生はどのようなテーマで研究を行っていますか?
  •  研究テーマは基本的に学生が自由に選んでいます。なかなかテーマが決まらない時には、ゆっくりと時間をかけて対話を重ねて行くことで、自分が何をやりたいのかを見つけて行ってもらうようにしています。ただ、全員に共通しているのは、フィールドワークやインタビューなどを含む「民族誌的手法」を用いるという点です。
     学生の研究テーマの例としては、K-Popツアーを事例としたミュージック・ツーリズムを取り上げている人もいれば、複雑な歴史をもつ地域の民謡がポップス化/商業化していくプロセスを考えている人、さらに中国のある民族の楽器が現在どのように伝承されているのか、何が伝承されて/されないのかについての調査を行っている人もいます。テーマはバラバラですが、「現地」での自分の体験や人との対話を通して、音楽文化・現象について考えている点が共通しています。

  • 研究へのモチベーションについて教えてください。
  •  自分を突き動かしているものは何かと尋ねられたら、様々な人やものや現象との「出会い(encounter)」なのかなと思います。必ずしも、お膳立てされた形式的な出会いではなくて、例えば自分が通りを歩いていたり、カフェで座って外を眺めていたり、横になって携帯でネットを眺めていたりする時に、「え?何これ?」というものと遭遇することがあります。一瞬、心を動かされただけで終わるものもありますが、ちょっと調べてみよう、出かけてみよう、話を聞いてみよう・・・と進むこともあります。すると、自分が想像もつかないような面白いことをしている人たちが私を待っていて、その先に、さらにビックリするような面白いものが待ち構えている・・・こうした連鎖反応を後で振り返ると、色々な自分自身とも「出会う」ことになります。自分が積極的に研究をしているというよりも、むしろこの循環する様々な出会いに引っ張られて生活しているなかに研究が存在している・・・そういう感覚です。

  • メッセージを一言。
  •  鳴り響く音や音楽に限らず、自分の五感を通して色々な体験をしてみることが、まずは大事なんじゃないかなと思っています。携帯のナビを使わずに、隣町を冒険してみると、色々な発見があります。行き止まりだったり、ちょっと迷ったり、思わぬところに抜け道があったり、ナビで示された道を辿るのとは違う、自分で歩く喜びがそこにあったりします。その道(未知)での色々な発見をする体験が増えることで、想像力の幅が広がったり、解像度が上がったりするような気がしています。