池上 健一郎(西洋音楽史)
- 研究テーマや研究の手法について教えてください。
18世紀から19世紀にかけてのドイツ語圏の作曲様式や音楽文化を研究しています。作曲家で特に関心を寄せているのが、ヨーゼフ・ハイドン(1732~1809)とアントン・ブルックナー(1824~1896)です。ただ、作曲家についての物知り博士を目指しているわけではなくて、どちらかというと、作曲家がどのような歴史的、文化的背景のもとで創作していたのかを明らかにしたいという思いの方が強いです。そのために、今ではほとんど忘れられているような作曲家やジャンルに、あえて光を当ててみることもあります。最近は、「音色」など、視覚や絵画に由来する概念が、音楽を語ることばに定着していった経緯にも興味があります。
研究の方法としては、作品の分析、そして過去の音楽雑誌や新聞、音楽理論書から、当時の人々が音楽をどのように捉えていたのかを読み解く作業が中心となります。常に「当時の人々に、音楽はどう聞こえていたのだろう?」と問いながらやっています。そういった意味では、音楽の研究でもあり、音楽をつうじた歴史の研究でもあります。
- 研究室に所属されている学生はどのようなテーマで研究を行っていますか?
わたしの研究室では、「これをやりなさい」と強要することはありません。それぞれの学生が、自分の興味・関心にしたがって研究するのをサポートするという感じです。ですので、研究テーマはまちまちです。ドビュッシーのピアノ曲や19世紀フランスのオペラから、17世紀ドイツの合唱音楽、第二次大戦後の日本の歌謡曲、在阪オーケストラの運営の現状、さらには長崎の隠れキリシタンの音楽まで。今のところ、自分の専門領域をやりたいという学生はいないので、いずれ来てほしいな、とひそかに思ってはいます(笑)。
- 研究へのモチベーションについて教えてください。
一番のモチベーションは、もちろん「研究がしたい!」ということです。もともと研究者になりたくて音楽学を始めた、ということもあって、やはり単純に研究をしたい、今後も研究をし続けたい、という思いが、最近は特に強くなってきている気がします。自分が興味をもっていることについて突き詰めるのは、しんどいながらも、やりがいがあって幸せなことですから。
また、特に最近で言うと、音楽にかかわる過去の人間の営みを想像したり探究したりするのが楽しいというのもあります。音楽文化は、作曲家、演奏家、理論家、そして聴き手など、さまざまな人がいて成り立つものです。ですから、音楽史とは、結局は人間の営みの歴史です。その一端だけでもいいので、自分の手でひもといてみたいのです。現在の人や世の動向にはあまり関心がないタイプなのですが、なぜか過去のことになると興味は尽きません。
個人的な話を長々と語ってしまいましたが、音楽学者としては、そのように楽曲分析や歴史的な資料をもとに、時間をかけて得た知見を、信頼できる情報として世に発信したいという思いは持っています。音楽に限らずですが、いかにも怪しげな情報がまことしやかに語られる昨今ですからね。
- メッセージを一言。
音楽を聴いたり演奏したりする中で、「なんでだろう?」と思うことって、きっとあるはずです。そうした「ハテナの種」を大事に取っておいてほしいですね。そういうものを適当に流しても、生きていく上では何も困らないし、むしろその方が人生はシンプルでハッピーなのかもしれませんが、なんとなく自分の中で引っかかるものをじっくり突き詰めて考えていくことも、それはそれで楽しいものです。音楽について、時間をかけて調べたり考えたりしてみたい人、ぜひ一緒に学びましょう!